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SNS・マッチングアプリで急増するマルチ商法トラブル|仕組みと対策・ねずみ講との違いも解説

従来の『マルチ商法』といえば「疎遠だった友人からファミレスに呼び出されて見たことないメーカーの浄水器を紹介される」「ママ友にカフェに誘われ、健康食品を扱う団体に勧誘される」など、知り合いから商品を売りつけられたり勧誘をされるイメージが根付いていましたが、近年は少し状況が変わってきています。

近年のマルチ商法は舞台がファミレスやカフェから『SNS』『マッチングアプリ』に変化しており、商材も『セミナー』『勉強会』など無形サービスが主流。トラブルの相談件数では『20代の若い世代』が約半数を占めています。

今回の記事ではそんなネット上のマルチ商法にまつわるトラブルについて、実際の例や被害にあった場合の対処法などを解説してまいります。

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マルチ商法とは?

マルチ商法は正式名称を『連鎖販売業』といい、文字通り商品やサービス等の『販売』を主な事業として「人づてに販路を広げていく」ビジネス形態の一種を指します。

組織や団体の会員になって商品販売や新規会員獲得(販路拡大)に成功すると組織から『特定利益』と呼ばれる報酬をもらえるシステムですが、そもそも会員になるためには『入会費用』が必要だったり、商材の仕入のために借金をしてまで高額を支払う必要があるなど、初期投資が大きい一方で見返りがほとんど無いといったケースでの相談が相次いでいます。

また、従来のマルチ商法トラブルのきっかけは『知人』『友人』などの勧誘が大半だったことに対し、近年ではSNSマッチングアプリで出会った『面識のない人物』から勧誘を受けてトラブルに至るケースが多く見られます。

被害に遭う年齢層は『20代』の被害者が50%近くにのぼる(下図参考)など、近年のマルチ商法は若い世代がSNS・マッチングアプリを通じて被害に遭う傾向が強いことが特徴的です。

赤枠が『20代』の割合です。 引用元:『第1部 第1章 第4節 (5)マルチ商法に関するトラブル |令和2年版消費者白書』(令和6年7月取得)

また扱う商材に関しても、昔は『浄水器』『健康食品』『化粧品』などを扱うマルチ商法が多く見られたのに対し、最近では『セミナー』や『情報商材』『施設の利用権利』など無形のサービスを売る、いわゆる『もの無しマルチ』にまつわる相談が過半数を超えています(下図参考)。

赤枠が『もの無しマルチ』の割合です。 引用元:『第1部 第1章 第4節 (5)マルチ商法に関するトラブル |令和2年版消費者白書』(令和6年7月取得)

マルチ商法は違法ではないの?

悪質商法としての印象が強いマルチ商法ですが、実は法的な視点で言えばマルチ商法はすべてが『違法なもの』というわけではありません。

似たような組織ビジネスで一発で違法と判断されるものに『ねずみ講』というものが存在しますが(後ほど解説します)、マルチ商法に関しては健全な組織運営がされている限りはまっとうな事業の一種なのです。

実在の企業としては『ミキプルーン』で知られる大阪の『三基商事株式会社』や兵庫の化粧品メーカー『ノエビア』もマルチ商法をとり入れた事業を行っていますが、大きなトラブルを聞きませんよね。

ただし、ビジネスの形態自体は違法ではないとはいえ、マルチ商法では事業運営の過程において消費者トラブルが非常に多いことから『特定商取引法※』という法律によって規制が設けられています(※第三章 連鎖販売取引 第三十三条第四十条の三)。

こうした特定商取引法の決まりを逸脱した一部の事業者や会員が、マルチ商法の悪いイメージを定着させてしまったと言えるでしょう。

実際にあったトラブルの例

それでは実際に、最近あったマルチ商法トラブルの例を見ていきましょう。

①マッチングアプリの異性から『ビジネススクール』へ勧誘された

最近特に多いのが『ビジネススクール』『セミナー』『アカデミー』『オンラインサロン』などの「投資」や「副業」の学習機会提供を謳った悪質なマルチ商法です。

令和6年7月11日に東京都の経営者ら4名が逮捕された事件では、容疑者らは恋愛目的を装ってマッチングアプリを通じ接触した男女系2000名に対して

ビジネススクールに入ればバイナリーオプション(為替予測取引)などを学べる
入会金は42万9000円だが、1人紹介すれば10万円もらえる

などと言って被害者を容疑者らの運営する『ビジネススクール』へ加入させ、合計8億5000万円の契約金を得ていたとされています。

②アプリ紹介案件で海外事業者の口座に24万円振り込んだ

近年のマルチ商法トラブルでは海外の事業者が関与している例もあります。

マッチングアプリで知り合った女性に「儲かるいい仕事の話がある」と言われ、事業者のオフィスに女性と行った。
オフィスで説明を聞いたところ、麻雀のアプリを広め、紹介した人が契約すると、契約金額の5%が紹介料としてもらえると言うものだった。
登録料は24万円必要だが、紹介した女性も既に70万円儲けたというので、自分も契約することにした。また「20日以内ならクーリング・オフができる。」とも言われたので、信用して登録料を事業者の口座に振り込んだ。事業者は海外の事業者のようで、麻雀アプリは英文だった。ウェブでの申込みで、契約書面は受け取っていない。
数日後、やはり不審なのでクーリング・オフしたいと女性に伝えたが、クーリング・オフで返金されるのは、手数料数万円を引いた額だと言われた。
引用元:『
川崎市 : 若者に広がるマルチ商法に注意!』(令和6年7月取得)

③SNSの『キラキラ投稿』にあこがれ…110万円その場で支払い

2021年に起きた事例では、いわゆる『キラキラ投稿』で被害者の興味をひいて高額の契約料を支払わせていたケースが確認されています。

事業側の会社経営者の男性は、自らを広告塔としてタワーマンションの暮らしや高級車を乗り回す様子などをSNSへ投稿し、興味を持った20代前半の若者を中心にコンサルティング料110万円」を支払わせるとともに「新規会員を勧誘できれば20万円を報酬として渡す」マルチ商法を行っていました。

会社経営者男性の実際のツイート(令和6年7月取得)

この件は最終的に東京都より東京都消費者被害救済委員会が紛争処理を付託されるまで事態が大きくなりましたが、この会社経営者の男性は現在はアカウントを変えて同様の勧誘を継続して行っていることが確認されています。

参考:『SNSで知った『投資で稼げる』というオンラインサロンの契約に係る紛争案件報告書』東京都消費者被害救済委員会(令和6年7月取得)
参考:『キラキラ生活に憧れる若者を勧誘する『キラキラトレーダーK』被害者や元同僚が語る実態 タワマンに張り込み直撃取材すると走り出したK氏...』MBSニュース(令和6年7月取得)

こんな勧誘には注意。マルチ商法の見抜き方

悪質なマルチ商法に遭わないためにも、マルチ商法の勧誘でよくある特徴を抑えておきましょう。

①別の目的で呼び出されたあとで勧誘を受けた

特定商取引法では、マルチ商法の勧誘をする際は事前に「勧誘が目的であることを伝える義務」が定められています。

SNSやマッチングアプリで知り合った相手から「会ってみたい」「お茶しよう」などと呼び出された後で急に勧誘を始めてきた場合は、よろしくない組織のマルチ商法に誘われている可能性大です。

②「すぐ稼げる」「成功する」

「FX投資で成功する秘訣を教えるビジネススクール」「バイナリーオプションで1000万稼ぐ方法を伝授するクローズドチャットグループ」など、そのコミュニティに加入すれば自分も大金を得られそうなイメージ」を植え付けるのもマルチ商法でよくある手口です。

特に『投資』などの初心者にとって「よくわからないけど何だかすごそう」なものは、悪質な事業者からすれば洗脳がしやすい分野。

そもそも自分がよく理解できない商材等を取り扱うビジネスには安易に手を出さないようしてください。

③第三者に会わせようとする

「すごい人がいるから紹介したい」「ビジネスの師匠がいる」「一緒にセミナーを見に行こう」などといって第三者をしつこく紹介しようとしてくるのもマルチ商法でよく見られる手法です。

いざ会いに行ってみると密室に閉じ込められて「契約するまで帰してもらえない」なんてことや、「セミナーの雰囲気にのまれてしまって勢いで契約してしまう」なんてこともあり得ます。

おまけ:『ねずみ講(無限連鎖講)』はなぜ違法?

マルチ商法とねずみ講はどちらも『消費者を勧誘し、拡大していく組織形態』であることが共通した特徴ですが、両者の違いは「商品やサービスの提供」を行っているか否かにあります。

マルチはこれまでご紹介した通り「商品」「サービス(セミナーや勉強会など)」を提供していますよね。強引な勧誘などしなければ、ごく一般的で健全な販売業です。

一方でねずみ講の収入源はあくまで新規会員から得られる『入会金』『初期費用』だけで、そのお金を組織内の人間で分配しています。

分配金は組織の上層であるほど多く得られますが、入ったばかりの人には大きな恩恵はありません。それでも、自分の支払った入会金を取り戻すにはとにかく新たに人を勧誘するしか方法が無いのです。

ねずみ講は「27代目で破綻」する?

また、ねずみ講が法的に禁止される最大の理由として、ねずみ講は「結果として27代目で破綻することが確定している」運営方法であることが挙げられます。実際に見て行きましょう。

例えば『1カ月に2人を勧誘する』ノルマがあったとして、5か月目までに組織の人数は以下のように増えていきます。※( )内は次月新たに増加する人数

1カ月目: 1人(×2名=2名)
2カ月目: 3人(×2名=6名)
3カ月目: 9人(×2名=18名)
4か月目:27名(×2名=54名)
5か月目:81名(×2名=162名)…
これを続けていくとどうなるでしょうか?
答えは「27カ月(2年3カ月)目に組織の人数は『1億3421万7727人』となり、日本の総人口約1億2375万人をオーバーしてしまうのです。

もちろん現実的には27カ月目のはるかに手前で勧誘できる人数に限界がくるでしょうから、組織に入った大部分の人には見返りもなく、入会時に支払った負債だけが手元に残る形となります。
一方でマルチ商法では新規会員から入るお金がなくとも、まだ『商品売買』の道が残されています。
どの会員にも「商品がバカ売れすればマイナスを巻き返せる」可能性が残されているため、法的に「事業運営が絶対不可能」なビジネスとは断言できないんですね。
これがねずみ講が違法とされ、マルチ商法が特定商取引法で規制されるだけにとどまっている理由です。
ちなみに、ねずみ講に関わった場合は次のような罰則が設けられています。
①開設又は運営した者
3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金
②会員となって反復継続の意思をもって他の人に会員になることを勧誘した者
 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
ねずみ講にあたる組織を開設・運営した人物はもちろん、友人・知人の紹介などで違法と知らずに勧誘を行ってしまった場合でも罰則を受ける可能性があるため、特にねずみ講を知らない若い世代の方は注意が必要です。

マルチ商法被害に遭ってしまったら

悪質なマルチ商法の被害に遭ってしまった場合はどうしたら良いのでしょうか?自力でも可能な対処法について解説をいたします。

①クーリングオフ制度(契約から20日以内)

マルチ商法による取引はクーリングオフ制度の対象です。

マルチ商法の場合は『契約書を受け取った日』または『商品やサービスを受け取った日』のどちらか遅い方を起算日として20日以内に申し出ることでクーリングオフをすることができます。

また、受け取った契約書にクーリングオフについて記載が無い場合や、そもそも契約書自体を受け取っていない場合など事業者側の不備が認められる場合は、20日を過ぎた場合でもクーリングオフが可能です。

    ちなみに、クーリングオフの申し出はメール等でも可能です。「クーリングオフを申し出た証拠」が手元に残る形で行う必要がありますので、詳しくは国民生活センターのホームページをご参考ください。

    ②中途解約(商品等を受け取ってから90日以内)

    悪質な手法のひとつに、契約書を受け取った時点では「マルチ商法である」ことの説明が無く、クーリングオフの対象となる20日を過ぎてから「他の人へ売ってくれたら報酬を出す」などと伝えるケースがあります(『あとだしマルチ』)。

    こうした場合は法的に『中途解約』や『返品』が認められることがあります。以下の要件が当てはまっている場合は中途解約等ができる可能性が高いため、相手方と交渉をしてみましょう(交渉の記録は必ず取っておきましょう)。

    • 入会後1年を過ぎていない
    • 商品の受け取りから90日を過ぎていない
    • 商品の再販売や使用はしていない
    • 商品の紛失や故障等がない

    ③消費生活センターへ相談

    上記の①②に当てはまらない場合や、相手がクーリングオフや中途解約の申し出に応じない場合、一人で対応するのが不安な場合は最寄りの消費生活センターへ相談をしてください

    相談は無料でできます。
    個人の判断で相手方に対してむやみに交渉をしてしまうと、新たなトラブルの火種となるリスクもありますので、迷った場合は専門家を頼りましょう。

    消費生活センターでは状況の聞き取りと整理に加え、もしも相手方とすでにトラブルになっている場合には解決のためのアドバイスをもらえます。

    各都道府県の『消費生活相談窓口』
    電話受付時間:平日10時~12時/13時~16時
    電話番号:188
    相談料:無料
    ホームページ:消費者ホットライン(全国統一番号)

    支払ったお金は返ってくる?

    ここまでマルチ商法でトラブルになった場合の対処法をお話いたしましたが、悪質な企業の場合は被害者がクーリング・オフや中途解約を申し出たとしても「手数料が引かれる」等と言って返金を拒否するケースがあります。

    また、消費生活センターではトラブル解決のアドバイスなどはできても、個別の返金請求までは対応はできません

    すでに支払ってしまったお金を取り戻したい場合は、弁護士や司法書士からの代理返金請求がおすすめです

    弁護士・司法書士による代理返金請求

    弁護士や師匠書士へ依頼するための費用は発生してしまいますが、被害金が回収できた場合にのみ報酬を受け取る『成功報酬型』の弁護士・司法書士事務所であれば費用を大きく抑えることが可能ですし、返金の可能性は自力で対処するよりもはるかに高くなります。

    実際に、2020年10月にマッチングアプリを通じて知り合った異性からマルチ商法の勧誘を受けて110万円を契約料として支払った被害例では、弁護士をたてて争ったことで事業者側に110万円全額の返金と遅延損害金の支払いが命じられています。(参考:『消費生活相談員のための判例紹介』全相協つうしん.令和6年7月取得)

    また、これまで解説した方法と異なり被害者が業者と直接交渉をしなくて良いため安全性が高いという点でもおすすめです。

    被害金が一切戻らない可能性を考えれば、弁護士・司法書士による代理返金請求を検討する余地は十分にあると言えるでしょう。

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    まとめ

    副業や投資に対する意欲が高く、ネット上で面識の無い人と繋がることに抵抗が無い若い世代にとって、『副収入』と『仲間』が同時に得られるマルチ商法は魅力的に見えるビジネスです。

    もちろん中には健全な運営を行っている事業者も存在しますが、悪質な手法で金品を巻き上げている事業者が一定数存在することも事実です。

    ご自身や身近な人がトラブルの被害者とならないよう、ネット経由で行われるビジネスのお誘いには安易に乗ることはせず、慎重に対応をするようしてください。

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