- 架空請求詐欺とは、未払い料金などの架空の口実によってお金を騙し取る犯罪である
- 架空請求を受けても無視することが最善の対処法である
- 架空請求を見抜くためには特徴を知っておくことが重要である
- 返金してもらうためには弁護士・司法書士に依頼した方がよい
ある日突然、利用した覚えのない料金を請求するメールやハガキなどが届き、驚いたことがある人も多いことでしょう。
このようなメールやハガキは「架空請求」という手口の詐欺です。身に覚えのない料金は、絶対に支払ってはいけません。無視しましょう。
架空請求詐欺は比較的古くからある詐欺の手口で、多くの場合は一見して不当な請求であるとわかるものです。
しかし、それでも請求を受けると不安になる人は多いですし、詐欺の手口も巧妙化しているため、現在でも被害に遭っている人は少なくありません。
そこで今回は、架空請求の具体的な手口をご紹介するとともに、無視してよい理由や、被害に遭ってしまったときに返金してもらう方法についても分かりやすく解説していきます。
架空請求詐欺とは?
架空請求詐欺とは、その名のとおり、利用してもいない架空の料金を表示し、それが未払いになっていると告げて支払いを要求する手口の詐欺のことです。
パソコンや携帯電話のメールが普及しはじめた頃から架空請求詐欺の被害は確認されていましたが、2003年~2004年にピークを迎え、その後は減少傾向にあります。
国民生活センターに持ち込まれた相談件数の近年の推移は、以下のとおりです。
年度 | 相談件数 |
---|---|
2018 | 226,419 |
2019 | 108,908 |
2020 | 28,370 |
2021 | 12,321(前年同期21,270) |
【出典】: 国民生活センター|架空請求
相談件数が減少している理由は、ネット詐欺の手口が多様化してきたことによると考えられます。現在でも相談件数は決して少ないとはいえませんし、架空請求詐欺の手口も巧妙化していますので、引き続き警戒が必要です。
架空の料金を請求する口実にはさまざまなパターンがありますが、ここでは代表的なものをご紹介します。
アダルトサイトなど有料コンテンツの未払い料金を請求する
最も多いパターンは、アダルトサイトの利用料金が未払いになっているとして、その支払いを請求するメールやSMSが送られてくるというものです。
実際に存在する有名なアダルトサイトの名称を表示して具体的な金額を請求されることが多いため、そのサイトを利用したことがある人は、おかしいと思いつつも支払ってしまうことがあります。
そのサイトを利用したことがない人でも、「何かの間違いでは?」と思って問い合わせ先に連絡すると、脅迫的な請求を受け、恐怖心から支払ってしまう人もいます。
他にも、出会い系サイトや、ネット上のさまざまな有料コンテンツの運営者をかたって架空の料金を請求してくる詐欺業者がいます。
裁判所等の公的機関を名乗って支払いを請求する
裁判所や、それに類似した公的機関の名称を名乗り、「訴訟最終告知のお知らせ」などと題するハガキを送ってくるパターンもあります。
内容は、何らかの料金が未払いとなっており、その運営会社から債務不履行を理由とする民事訴訟が起こされたというものが多いです。
その場合、民事訴訟の取り下げが可能な最終期限として具体的な期日が記載されており、そのときまでに連絡がなければ訴訟を開始し、最終的に給与や動産、不動産などの差押えを行う旨が記載されています。
ハガキを受け取った人が連絡をすると、具体的な金額や送金先などが告げられるという手口です。
法律事務所や弁護士を名乗って支払いを請求する
裁判所等の公的機関ではなく、法律事務所や弁護士を名乗り、上記のハガキとほぼ同様のものを送ってくるパターンもあります。
裁判所を名乗った郵便物は、見る人が見れば虚偽であることがすぐに分かりますが、法律事務所や弁護士を名乗った場合には真偽の見分けがつきにくくなります。そのため、受け取った人が問い合わせ先に連絡する可能性が高いといえます。
その他にも、有名企業の名称や個人名を名乗るパターンなどもあり、手口は巧妙化しています。
有名企業であれば利用した心当たりがある人も多いですし、個人名の場合は友人や知人に同姓の人がいる場合には、つい返信してしまうこともあるでしょう。
架空請求詐欺でお金を騙し取る手口
次に、詐欺業者が架空請求詐欺でお金を騙し取るまでの流れに沿って、具体的な手口をご紹介します。
メールやハガキで架空の請求を受ける
まず、詐欺師は架空の料金を請求する内容のメールやハガキを送信します。詐欺師も、大半の人に無視されることは分かっているので、不特定多数の人に宛てて大量に送信します。
その中から返信してきた人にターゲットを絞り、詐欺を仕掛けていきます。
その他にも、電話で架空の料金を請求してくる手口もあります。電話による詐欺の場合、「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」などのバリエーションもあります。
また、アダルトサイトなどの年齢確認ボタンをクリックしただけで登録が完了したように見せかけて高額の料金を請求する「ワンクリック詐欺」も架空請求詐欺の一種です。
連絡すると個人情報を聞き出される
詐欺業者の問い合わせ先に連絡した場合、本人確認などの口実で氏名、住所、クレジットカード番号などの個人情報を聞き出されることもあります。
個人情報を知られてしまうと、詐欺業者からの「自宅まで取り立てに行く…」「払わなければ裁判をする…」などの脅しが信憑性を増してしまいます。そのため、支払いを拒否しにくくなるという心理的なデメリットもあります。
延滞料金や裁判を口実に支払いを強要される
詐欺業者は
「延滞料金が1日ごとに加算されるので、早急にお支払いください…」
「○月○日までにお支払いいただけなければ、裁判をすることになります…」
などと脅してきますが、これらの口実も架空のものです。しかし、詐欺の被害者は「延滞料金」「裁判」などの言葉により、心理的に支払いを強制されてしまいます。
電子マネーでの支払いを要求されることが多い
支払い方法について、以前は以下のいずれかの方法を指示されていました。
- 銀行振り込み
- 現金書留
- 宅配便で現金を送る
しかし、最近ではコンビニなどで電子マネーカードを購入し、そのカード番号を連絡するように指示されるケースが多くなっています。
一度お金を支払うと再度請求されることもある
一度でも騙されてお金を支払ってしまうと、詐欺師から「カモ」として扱われる可能性が高いです。「騙せば払う」「脅せば払う」と思われてしまうため、さまざまな口実で何度も架空の料金の支払いを請求されるおそれがあります。
そういうこともあるので、たとえ少額であっても決して詐欺業者にお金を支払ってはいけません。
架空請求詐欺のよくある事例
ここでは、架空請求詐欺のよくある事例をいくつかご紹介します。事例をご覧いただくことで、詐欺師の手口をより具体的に理解していただけることでしょう。
メールで架空の請求を受ける事例
まずは、架空請求メールの文面の例をご覧ください。
【出典】: 大阪府|架空請求にご注意を!
この文面は電話連絡を要求するものとなっていますが、他にもさまざまなバリエーションがあります。上記の文面は、あくまでも一例として参考になさってください。
- 詐欺サイトのURLを掲載し、クリックを求めるもの
- 送金方法が直接指定されているもの
- 延滞料金や裁判、差押えについて記載されているもの
公的機関をかたる詐欺犯からハガキが届く事例
次に、公的機関をかたる架空請求ハガキの文面をご覧ください。
【出典】: 静岡県伊東市|架空請求詐欺のハガキにご注意ください
専門用語が記載されているため、裁判や差押えに関する知識がない人が受け取ると、本当に裁判を起こされたのではないかと不安になってしまうかもしれません。
しかし、「法務省管轄支局」や「民事訴訟告知センター」という名称の公的機関は存在しません。住所が番地まで記載されていないことも、架空請求ハガキの典型的な特徴です。
また、実際に裁判を起こされたのであれば、裁判所から訴状や呼出状が入った封書が特別送達で届けられます。ハガキで連絡されることはありません。しかも、訴訟取り下げの相談などという制度もありません。
基本的な知識があれば一見して不当な請求であることがわかりますが、知識のない人が問い合わせ先に連絡してしまうと、脅迫的な請求によって支払いを強要される可能性があります。
電話で送金を指示された事例
2021年6月、千葉県松戸市の64歳の男性が、電話による架空請求で4,300万円もの被害に遭った事件が発覚しました。
松戸署は22日、松戸市の会社員男性(64)が現金約4300万円をだまし取られる架空請求詐欺事件が発生したと発表した。
同署によると、今年3月31日~5月22日ごろの間、男性の携帯電話に携帯電話会社社員や神奈川県警警察官などをかたる男5人から「サイトの利用に関し未払いがある」「あなたの携帯電話に入ったウイルスが拡散されてしまい被害が出ている。損害賠償を請求される恐れがある」「あなたは詐欺事件の関係者である可能性がある。お金を調べるので生命保険を解約して」などとうその電話があった。
男性は現金を複数回、金融機関の口座振り込みや宅配便を使って引き渡した。一度に多いときで数百万円を送付した。宅配便での送付先は都内など関東地方の複数の場所だった。男性は男たちと対面する機会はなかった。
男性が今月15日、「お金を返してもらえる10日の期限がきても返してもらえない」と同署に相談し、被害が分かった。
【引用元】: 千葉日報|架空請求4300万円被害 松戸の男性
架空請求詐欺では幅広い年代の人が被害に遭っていますが、電話による手口では高齢者が被害者となる割合が高くなっています。
架空請求メール・ハガキの特徴
架空請求のメール・ハガキの特徴を知っていれば、被害を未然に防ぐことが可能となります。以下で、それぞれの特徴をご紹介します。
メールによくある特徴
架空請求メールには、以下の特徴があることが多いです。
- 「大切なお知らせ」「警告」など気を引くタイトルが付いている
- 送信者の情報が不明確
- 宛名もない
- 請求内容が具体的でない
- 身辺調査、裁判、差押えなどの脅し文句が記載されている
- 「電子消費者契約法」「発信者端末電子名義認証」など難解な用語が用いられている
メールの内容をよく見れば、誰にでも当てはまるような内容であることがわかるはずです。架空請求メールは不特定多数の人に対して大量に発信されているので、それも当然のことです。
ハガキによくある特徴
一方、架空請求ハガキには以下の特徴があることが多いです。
- 「訴訟最終告知」といったタイトルが付いている
- 差出人の名称が公的機関と誤認してしまうようなものとなっている
- 差出人の住所が番地まで記載されていない
- 訴訟が提起されたといいながら原告名が記載されていない
- 「強制執行」「差押え」といった脅し文句が記載されている
- 期限までに連絡すれば訴訟取り下げが可能であるかのような記載がある
ハガキもメールと同様、誰にでも当てはまる内容となっています。落ち着いて確認すれば、怪しい内容であることがわかるはずです。
架空請求のメール・ハガキは無視すること
架空請求のメールやハガキを受け取ったときは、無視することが最善の対処法となります。おかしいと感じ、事情を確認したいと思っても、詐欺業者に連絡してはいけません。
ここでは、架空請求のメール・ハガキを無視してよい理由と、連絡した場合のデメリットについて解説します。
契約は成立していない
詐欺業者が請求してくる料金は「架空」のものなので、お金を支払う義務は一切ありません。そもそも何の契約も成立していないので、連絡する必要もないのです。
契約とは、商品の購入やサービスの利用についての「申し込み」と「承諾」が合致したときにはじめて成立するものです。架空請求の場合、そもそも申し込みや承諾がないので契約は成立していません。
個人情報は相手に知られていない
架空請求メールを無視すると、本当に裁判や差押えをされるかもしれないと心配する人もいることでしょう。
しかし、詐欺業者は相手の個人情報など把握していないので、実際に裁判や差押えをすることはできません。
メールアドレスが知られているとしても、それは非合法なネットワークで取得したものである可能性が高いです。詐欺業者がメールアドレスから利用者の個人情報を割り出すことはできないので安心してください。
連絡すると個人情報を聞き出されてしまう
しかし、不安に思って詐欺業者に連絡すると、そこで氏名や住所、電話番号などの個人情報を聞き出されてしまいます。そうすると、「自宅まで取り立てに行く」と脅されると恐くなり、お金を支払ってしまうことにもなりかねません。
また、個人情報が悪質業者の間に出回ってしまい、別の詐欺被害を受けてしまうおそれもあります。
架空請求詐欺で支払ってしまったお金を返金してもらう方法
架空請求詐欺に遭い、お金を支払ってしまった場合は、以下の方法でお金を取り戻せる可能性があります。
まずは証拠を確保する
返金を求めるためにまずやるべきことは、証拠を確保することです。
架空請求メールで被害に遭った場合は、そのメールを表示した画面をスクリーンショットで保存するか、写真に撮影して証拠化しておきましょう。架空請求ハガキが届いた場合は、そのハガキを保管しておくことです。
また、送金するまでの詐欺業者とのやりとりも記録し、送金した際の振り込み明細書や電子マネーカードなども保管しておきましょう。
警察に相談する
証拠を確保したら、早急に警察に相談しましょう。警察によって犯人が検挙された場合は、刑事事件における示談交渉で返金してもらえる可能性があります。
ただし、警察が犯人からお金を取り戻してくれるわけではないので、必ずしも経金されるとは限りません。
相談先は最寄りの警察署でも構いませんが、できれば各都道府県の警察本部に設置されているサイバー犯罪相談窓口に相談した方がよいです。
銀行・カード会社に相談する
警察に相談した後は、すぐに銀行やカード会社にも相談しましょう。
銀行振り込みでお金を支払った場合は、その銀行に相談すれば、振り込め詐欺救済法に基づき詐欺業者の口座が凍結され、その預金の中から返金を受けられる可能性があります。
カード決済で支払った場合は、そのカード会社に相談すれば、取引を停止して返金してもらえる可能性があります。
ただし、現金書留や宅配便で現金を送った場合や、電子マネーで支払った場合は、これらの方法で返金を受けることはできません。
国民生活センターに相談する
国民生活センターでは、さまざまな消費生活トラブルに関する相談を無料で受け付けています。架空請求詐欺の被害についても数多くの相談が寄せられているので、相談すれば有益なアドバイスが受けられます。
相談する際は、局番なしの「188」に電話をするのが便利です。最寄りの消費生活相談窓口を案内してもらえます。
詐欺業者と交渉する
警察や銀行、カード会社への相談によって返金が受けられなかった場合は、詐欺業者と直接、交渉する必要があります。
ただし、詐欺業者が被害者本人からの返金請求に素直に応じることはまずありません。逆に、さまざまな口実でさらに支払いを請求され、被害が拡大するおそれもあります。
したがって、自分で詐欺業者と直接交渉することはあまりおすすめできません。交渉は弁護士や司法書士という法律の専門家に依頼した方がよいでしょう。
架空請求詐欺の被害に遭ったら弁護士・司法書士に相談を
身に覚えのない請求を受けて不安なときも、詐欺業者にお金を支払ってしまったときも、まずは弁護士・司法書士に相談することをおすすめします。
お金を支払ってしまった場合は、法律の専門家に相談することで、状況に応じて最適な返金方法をアドバイスしてもらえます。依頼すれば、詐欺業者との交渉や法的手続きを任せることができます。
まだお金を支払っていない場合は、専門家が架空請求のメールやハガキを見れば詐欺であることが一目瞭然なので、無視して構わないことが理解でき、安心できることでしょう。
なお、身に覚えのない請求だと思っても、裁判所から訴状や支払督促が届いた場合は、無視すると支払い義務が法的に確定してしまいます。その場合も、専門家に相談すれば必要な対処法をアドバイスしてくれます。
そういったリスクもあるので、架空請求のメールやハガキを受け取って不安な場合は弁護士・司法書士に相談することを強くおすすめします。
まとめ
架空請求詐欺を受けても、決して詐欺業者に連絡しないようにしましょう。お金を支払うのはもってのほかです。無視してください。
ただ、架空請求詐欺の手口も巧妙化していますので、実際にお金を支払ってしまう人は少なくありませんし、不安になる人も多いことでしょう。
そんなときは、一人で悩まず弁護士・司法書士に相談することです。専門家のサポートを受けて、架空請求詐欺から身を守りましょう。